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【実施報告】東アジア~タネが生み出す地域の未来~について

2019年6月27日

みなさんこんにちは。

ホールアース自然学校の松尾です。

今回は、昨年末に富士山麓にて開催された

「東アジア~タネが生み出す地域の未来~」

事業の報告をさせて頂きます。

なお、開催の経緯や助成元の情報については、先立って作成している下記の記事をご覧ください。

http://wens.gr.jp/blog/project/20181216eastasia.html

 

本事業は2018年12月21日~25日の5日間、「タネ」を共通のテーマとし、東アジア4地域(日中台韓)の研究者・実践者・農家などが集まり検討会を開催するものです。

以下、時系列に沿って項目ごとに記載させて頂きます。

 

□本会について

まずは5日間のスタートとして、この会のあり方について共有を行いました。ホストであるホールアース自然学校の山崎から、「在来作物をとりまく課題は多くある。農場部門を立ち上げ実践者として課題の解決に挑んでいる中で、例えば『そもそも普段から口にする食べものはどこからくるのか?』といった根本的な問いや、『在来作物をどのようにして消費者に届けるのか?』という具体的な課題を体感している。これらに対しては、類似する文化圏の東アジア地域において密なネットワークを組むことや相互に一歩踏み込んだ理解を進めることで、解決に向かうのではないかと考えている。本会をその第一歩としていきたい。」との投げかけがありました。

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□在来作物を取り巻く現状(台湾・日本)

研究者という立場から、各地域での市民レベルでの情勢や動向、またタネを今後消費者と結びつけていく中で見つめるべき課題やポイントという観点でお話を頂きました。台湾からは、地理的な条件や地域の構造的に在来種が必要とされ一定の生産が行われている事例や、ある地域のタネが外に出ていく(社会化されていく)際に生産元である原住民側にメリットを確保する仕組みをどう作っていくかという議論が起きていることなどが紹介されました。続いて日本からは、現時点での在来種や固定種の捉え方に関する本質的な部分から話が始まり、在来種がどう活用されているのか、またどんな仕組み・制度と在来種を結びつけ価値化していけば良いのかなど、国内の様々な事例を元に言及して頂きました。

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□有機農家見学

富士宮で有機農業を営む農家の方の畑にお邪魔し、栽培している在来種の育成方法や考え方などを学びました。野菜一つ一つの具体的な管理方法から野菜の出荷先・加工品(消費者とつながる出口)の紹介、そして富士山麓で持続的に有機農業を営んでいる方法まで、実践者の立場からたくさんのことを語っていただきました。

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□在来種の種採り体験

地元の有機農家である鈴木さんの指導により、種採り体験の時間を設けました。日頃から種に触れている皆さん。手際よく作業を進めていました。印象的だったのは、作業中の会話が弾んだこと。目の前の種のことや作業の進め方だけでなく、各地域の実状、今現在の個人的な思い・考えなど、これまでの時間では話し切れなかったことについて、笑顔も交えながら意見交換がなされました。共通の農作業がもたらす効果を実感した時間でした。

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□蕎麦打ち体験

静岡県で蕎麦屋を営む田形さんに来て頂き、在来種を使ったそば打ち体験会を実施して頂きました。田形さんは蕎麦に魅せられ、蕎麦を心から愛し、蕎麦の可能性を追求するために国内外を飛び回りながら魅力の周知や保全の活動をされている方です。蕎麦についての溢れる雑学や参加者のみなさんが思わず笑顔になってしまうほどの蕎麦を愛する姿勢に、参加者の皆さんも感銘を受けているようでした。また「在来種をつなぎ、守る」という観点においても、特に「在来種はその地域の気候や風土と結びついた独特の味があり、地域によって異なるのが魅力である。」「ここの蕎麦がブランド化するまではその場所から持ち出して積極的に発信していくが、ブランド化されたものはその地域から出さず、"その場所にいかなければ食べられない"状態にあるのが本物だ。」という点については、蕎麦のみならず在来作物を価値付けしていく上で大変参考になるお話でした。そしてそば打ち体験では、「誰でも気軽にそば打ちができるように」をテーマとし、簡単に揃う道具を使って参加者それぞれに蕎麦を打ってもらいました。そうして出来上がった蕎麦は当然美味しく、皆さんが味の違いを噛み締めながら口に運ぶ姿が印象的でした。在来種をきっかけとしてこのような方と繋がれたことが、本会そして在来作物にとって非常に意義深いものとなったと共に、参加者一人ひとりが「在来作物とどう向き合っていけばいいのか」について考えるきっかけを頂くことができました。

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□活動報告

各地域で活動している実践者の方々(生産・加工・販売など)に、自己紹介を兼ねた事例発表の時間をとって頂きました。「種と消費者をつなぐ」ための様々な事例の中で各地域に還元していけるアイディアを探し出すこと、そしてそれを受けて自分たちの地域でNEXT STEPをどう踏み出すか?を考えることがこの時間の焦点となりました。以下に、各地域の発表者と活動の概要を記載します。

・事例発表

①井川のらり屋 西川有貴さん・望月仁美さん(日本)

静岡県の中山間地域「井川」地区で在来作物の生産・加工に携わる西川さん。あるきっかけで出会った井川の在来種を作りたい!という思いで5年前に移住されてきた。井川地区では高齢化によって代々受け継がれてきた伝統文化が廃れ始め、「結」という井川独特の助け合いの精神も下火になり始めている。それに危機感をもった西川さんは、その地に昔から住んでいる望月さんと共にこの地に伝わる「焼畑農法」を復活させたり、小学校の生徒ともに在来作物を育てたりと、「自分たちができること」を熱意をもって実践されている。

②リアルフードマーケット 圷有恒さん(日本)

静岡市内で有機野菜の販売を行っている圷さん。少し前までは有機野菜を使ったレストランも経営しており、有機農家や一般の人が集まり情報交換をする場ともなっていた。在来種や有機野菜を販売している中で、市場の野菜と比べて形が悪く値段が高いそれらの流通を確保する苦労を身にしみて感じている。そんな状況でも、先に紹介した西川さんや稲垣先生と共に在来作物の販売を支援するネットワークを作り、在来作物が一般化していくために何ができるかを模索している。

③東華大学多元教育文化大学院 博士 兼 在来種加工・販売会社所属 詹于諄さん(台湾)

現代社会における「食べるための良いシステム」を作るために、約20年前に会社組織を立ち上げたユンさん。先住民と積極的に協働し、伝統や文化も合わせてその魅力として伝えていきたいと考えている。そのためには文化や生態などをしっかりと調査して根拠とすることでお金をつけ、在来作物を育てる小規模農家が活躍できるような場を支援していきたいと考えている。

④種子野台 簡子倫さん(台湾)

たくさんの畑や現場を回る中で在来種の危険性を感じ、自作した一輪車で台湾中を回りながらその魅力や必要性を語り続けているルンさん。先住民との関わりも深く、そこにある価値を守りつつ発信していくことで仲間を集め、自分たちが目指す地域に向けて着実に歩みを進めている。「種を守るためにはそれが生活の一部にならなくてはいけない。そのためにはお互いを理解することが重要となる。種の性格や物語を消費者に伝え、自分の地域を大切にする気持ちを育んでいきたい。」

⑤全国助成農民総連合会 박미정さん(韓国)

在来種子の実態を調査し、採種することで在来種を守り伝える活動を行っているパクさん。女性の農民の地位がとても低いことに問題を感じていた中で、種が農家にとって生活していくために非常に重要な要素となっていることに気がついた。地域の方々と一緒に在来種を育てながら、その魅力を一般市民に伝えていくことが重要である。在来種を守ること=消費者の権利を守ることと捉え、生産者と消費者が共に参加できる催しなども開催したり、生産者と消費者のネットワークを構築するためのお店を開いたりと、活発な動きが起きている。また自治体政府も在来種を守る農民を支援する法律を制定中であったりと、多様な主体が様々な動きを見せている。こうした取り組みの結果徐々に女性農民の地位が回復されつつある。

⑥シドリム 김석기さん(韓国)

シドリムの立ち上げメンバーで種を集め保存しその魅力発信に精を出すキムさん。かつては自分自身が有機農家になろうと挑戦したが失敗し、伝統農業を猛勉強する中で在来種に出会った。知れば知るほど在来種が危機にあることを実感したことでシドリムを立ち上げて、時代の変化に合わせて在来種のあり方を日々研究している。

⑦シドリム 변현단さん(韓国)

キムさんと同じくシードリームの立ち上げメンバーで、代表を務めるダンさん。全国の農民と自分の集めた種子を共有することを目指しながら、在来種の収集や普及啓発、政策提言や調査研究などを行っている。集めた在来種は6000種にも及ぶ。こうした熱心な取り組みをベースとし、現代社会において在来種の価値を発信する取り組みにも積極的に関与している。例えば地域の高齢者にインタービューし伝統文化や農法をまとめた本を出版した。これを読めば伝統農法を0からはじめることもできる。また種のトレーサビリティのデータベースを作成し、情報の共有と活用の基盤を作り上げた。農民の権利を回復していくためには、様々な立場の人が関わり大きなうねりを起こしていく必要がある。自分自身がまず変わることでその実現に向けて歩んでいきたい。

・各地域のNEXT STEP

①中国

料理を自分で作ることができない親が増えているので、食べ物を通して子どもに愛情を伝えるきっかけをつくっていきたい。お母さんにお弁当を作ってもらう食育活動なども行いたい。

②韓国

システムをつくるとその枠の中だけで発展してしまうため、各地で可能性が沸き起こるようなシステムをつくりたい。そのためにはフラットで緩やかなネットワークをつくり、多様性を活かした柔軟な組織づくりを目指したい。

③日本

種をテーマとしたフォーラムを行いたい。また、シードバンクとして種を集めたものの生産者につなげる仕組みができていないので、地域の人たちを巻き込んで拠点となるカフェのような施設をつくりたい。そこで在来種が食べられて、種の話が聞けて、種と触れ合えるようにもしたい。

④台湾

地域の方々と協力して在来種マップをつくりたい。先進的な事例をどんどんと取り入れて、楽しみながら種に関する運動を大きくしていきたい。

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□在来種・固定種を使用した食事会

富士宮のカフェ「café&deli mogu」店主の秋津さんをお呼びし、在来作物や固定種をふんだんに使ったお料理を頂く食事会を開催しました。「在来作物や固定種の味や見た目を活かした料理を通して、種と消費者とつなぐ事例の一つを体験する」ことを目的とし、作物ごとの特徴の紹介や調理方法、また味付け等も含めて楽しんで頂く機会となりました。

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□ふりかえり

本事業の中で撮影した写真をみながら、5日間をふりかえる時間を設けました。「相互理解」「ネットワーク」「アイディア」という今回のテーマを再確認した上で、「種というキーワードをもとに、今回の中で気づいたこと・学んだこと・感動したことはなにか?」についてまずは個人でふりかえる時間をとりました。各地域ごとに共有をしてもらいましたが、同じ体験をした中でもその人の視点や価値観によって異なった学びや気付きに溢れており、参加者にとってさらに学びが深まるよい時間となったようです。そして最後に、「種を未来へ」というキーワードに沿って、自分たちがどう一歩を踏み出していくかについて発表してもらう時間を作りました。「とにかくまずは実践してみること。それが周りの人を巻き込み、やがて大きなうねりになっていくだろう。」「既存の枠組みの中だけでは視野が狭い。種を守り伝える方法は内外とのつながりの中に大きな可能性を秘めている。」「自分たちだけが種の魅力を感じているのはもったいない。自分たちが感じた種の価値を発信することで、より多くの人達が種について知り考えるきっかけとなるだろう。」こうした意見の中に、参加した皆さんの中で種についての知見が広がり、その魅力や価値を守り伝えていこうという主体性が高まっていることを確かに感じることができました。最後は有機農家の鈴木さんから特性の絵本と種のイラストがプレゼントされ、温かい雰囲気のもとに本会が終了しました。会の終了後は連絡先の交換や協働の話が盛んに行われていて、本会の目指した「ネットワークの構築」が早くも芽生えていることを実感することができました。

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