2026年3月、ホールアース自然学校の新潟の拠点である「柏崎・夢の森公園」が、環境省の自然共生サイトに登録されました。
柏崎・夢の森公園では、2007年の開園以来、様々な市民団体と協働しながら、里山の保全活動を続けてきました。人の手が入ることで維持されてきた草原や湿地、雑木林、水田などの多様な環境を舞台に、これまで多くの方に自然体験を届けてきました。
今回の登録では、こうした活動によって里山の環境が維持され、生物多様性の保全につながっていることに加え、地域の人々が自然と関わりながら行ってきた活動そのものも評価されました。
この登録を記念して、「自然との共生」をテーマにしたシンポジウムを開催しました。

シンポジウムには、生物多様性研究の第一人者である東北大学名誉教授の中静透先生、地域の森林資源の利活用に取り組む柏崎木材協会会長の太田正昭さん、そして柏崎高校の高校生2名が登壇。高校生たちへの“特別授業”として、「自然を守ること」「自然を利用すること」「地域の未来」についてのトークセッションが行われました。
最初に投げかけられたのは、「自然を守る」と聞いて、どんなことをイメージするかという問い。
高校生からは、「自然破壊は絶対にダメ」「人間も立ち入らない方がいいのでは」という率直な意見が出ました。
たしかに、自然を守るというと、人が立ち入らず、そのままの状態で残していくことをイメージしがちです。
ここで中静先生から紹介されたのが、「保護」と「保全」の違いについて。
自然を人の手を加えずに守る「保護」に対して、「保全」は自然を適切に利用しながら、良い状態を維持していくという考え方であり、その代表的な場所が「里山」だという説明がありました。


夢の森公園にもある雑木林、草原、湿地、池、田んぼなど、さまざまな環境が組み合わさった里山は、長い間、人々の暮らしとともに形づくられてきました。
雑木林は薪や炭に、草原はかやぶき屋根の材料や田畑の肥料に、池は農業用水に利用されるなど、人が自然を利用することによって、里山の環境は維持されてきました。
ところが、暮らしや産業の変化によって、こうした自然との関わり方も大きく変化しています。
薪や炭を使う機会が減り、草原が利用されなくなり、農業の方法も変わっていきました。その結果、かつての里山に見られた植物や昆虫、カエルなどの生き物が減少することにもつながっています。
つまり、「人が自然に手を入れないこと」が、必ずしも自然を守ることになるとは限らず、人が適切に自然を利用することで、生き物たちが暮らせる環境が維持される場合もあるということです。
そのことを象徴する生き物として紹介されたのが、夢の森公園でも見られる猛禽類の「サシバ」。

サシバは林に巣をつくりますが、林だけでは生きていくことができません。田んぼや草原などに出て、そこにいる生き物を餌として利用します。林、田んぼ、草原など、さまざまな環境がモザイク状に存在する里山だからこそ、サシバが暮らすことができるのです。
一見すると別々に見える人の営みと生き物の暮らしが実は深くつながっていることに、高校生からも「目からウロコでした」と驚きの声が上がりました。
続いて話題は、「自然をどう利用するか」というテーマに。太田さんより、柏崎地区「つなぐプロジェクト」の取り組みについてお話しいただきました。
このプロジェクトは森林組合、製材会社、大工・工務店など、森林資源に関わる様々な人たちが連携し、柏崎地域の木材を地域で使い、循環させていくことを目指す取り組みです。
柏崎周辺には多くのスギ林がありますが、その多くは人が植えた人工林です。地域の木を適切に手入れし、伐採し、製材して、地域の建物や家具などに利用する。その循環が、森林を健全な状態に保つことにもつながります。

一方で、海外から安価な木材が入ってくる中、地域材を利用することにはコスト面での難しさもあります。だからこそ、地域の木材を選んで使うことの意味や価値を、消費者に伝えていくことが重要になります。
太田さんからは、木材の産地や伐採した人などの情報を記録できるICチップを丸太に取り付ける取り組みも紹介されました。木がどこから来たのか、その背景まで「顔が見える」ようにすることで、地域の森林資源を地域で循環させる仕組みづくりに取り組まれています。
そんな太田さんのお話を聞いて、高校生からは「木を使う・植える、この循環が森も地域も元気にすることが分かった」「将来自分が家を買うときには、地域の木材を積極的に使いたい」という感想も聞かれました。
トークセッションの終盤には、高校生から「中高生などの若い世代は、森や生物多様性についてどのように考えていったらいいか?」という質問も。
たしかに、昔と同じように薪や炭を使い、昔と同じ農業をすることは、今の暮らしでは簡単ではありません。だからこそ、「昔のやり方をそのまま再現する」のではなく、現代の暮らしに合った自然との関わり方を考えていく必要があります。
高校生からの問いに、中静先生からは「体験を大切にしてほしい」とのメッセージがありました。
自然について知識として学ぶだけでなく、実際に森や草原、田んぼなどで自然を体験し、「自然はいいものだ」と自分自身で感じる。
その体験があってこそ、日々の買い物で環境に配慮した商品を選ぶことや、自然共生の取り組みに参加することにもつながっていくのではないか、というお話でした。
高校生からも、子どもの頃に夢の森公園で自然体験をした思い出が語られ、「高校生になって勉強で忙しくなった今だからこそ、こうした楽しい体験の機会を大切にしたい」という声が聞かれました。
今回のシンポジウムを通して見えてきたのは、自然共生は決して特別なことではなく、私たちの日々の暮らしとつながっているということでした。
地域の木材を使うこと。環境に配慮してつくられた農作物や海産物を選ぶこと。そして、柏崎・夢の森公園のような場所を訪れ、地域の自然について知ること。
一人ひとりの小さな選択や行動が、地域の森林や里山を守り、生き物たちの暮らせる環境を未来へつなぐことにつながります。
シンポジウムの最後には、自然共生サイトの登録を記念して生まれた歌「フロム~ともにある未来~」が、柏崎少年少女合唱団の皆さんによって披露されました。

「ここから始まる未来」「みんなで紡ぐ未来」というメッセージが込められた歌声が会場を包み、自然とともにある地域の未来を、みんなで育てていくという今回のシンポジウムを締めくくりました。
柏崎・夢の森公園が自然共生サイトに登録されたことを一つの節目として、これからも多くの方に里山の自然に触れ、楽しみながら学び、自然とのつながりを感じてもらえる場所であり続けたいと思います。
ここで生まれた「楽しかった」「もっと知りたい」という気持ちが、日々の暮らしや地域の未来を考えるきっかけになっていく。
そんな自然とのつながりを、これからも皆さんと一緒につくっていきたいと思います。
投稿:五條
